感情を選び直す3つのステップ|Self-regulation実践ワーク

「Self-regulation 自分の感情を選び直す力」と向き合うための実践は、再評価という技法から始まります。本記事で紹介する3つのステップを、今日から1日3分で試せる形でお渡しします。湧いた感情を抑え込むのではなく、扱い直すための、入り口の手順です。

Q1. なぜ「読んだだけ」では選び直せるようにならないのか

理論編・体験編を読み終えたあと、こんな感覚が残っているかもしれません。

「3秒の間が大事だ、と分かった。けれど、その3秒は、感情が湧いた瞬間には消えている」

頭で分かっても、行動が変わらないのは、あなたが怠けているからではありません。

3秒の間を作るというのは、自転車に乗りながら片手を離す動作に似ています。本で「ハンドルから片手を離して、バランスを取る」と読んでも、それだけでは離せません。実際に何度も自転車に乗って、最初は両手で握って、慣れたら片手を離して、最初はぐらついて、何度も練習して、ようやくできるようになります。

3秒の間を作る、というのも、これと同じです。情報として知っているだけでは、いざ感情が湧いた瞬間には間に合いません。事前に、3秒分の手順を、身体に覚え込ませておく必要があります。事前の準備が、現場での発動を可能にします。

これからお渡しする3つのステップは、その「事前の準備」のためのものです。日常の感情が湧いていない時に、何度も繰り返して、身体に覚え込ませる手順です。

Q2. 再評価という考え方

3つのステップをご紹介する前に、ひとつだけ言葉を共有させてください。

これから紹介する3つのステップは、すべて「出来事の意味を、別の角度から見直す」という作業のためのものです。これは、写真の現像に近い感覚です。

同じネガフィルムからでも、現像の仕方を変えると、まったく違う印象の写真ができあがります。明るく現像すれば華やかに、暗く現像すれば荘厳に。何を強調し、何を抑えるかで、同じ瞬間が違う物語に変わります。

出来事も同じです。会議で部下の報告が要領を得なかった、という同じ出来事も、現像の仕方によって、違う物語になります。「自分への侮辱だ」と現像することもできるし、「この子なりに精一杯だったが、状況が複雑すぎた」と現像することもできるし、「自分の指示が曖昧だったかもしれない」と現像することもできます。

ここで大事なのは、どれが「正しい」現像かは、決まっていない、ということです。事実は変わりません。けれど、事実の意味は、現像の仕方で変わります。そして、現像の仕方によって、湧いてくる感情の強さも変わります。

この出来事の意味を、別の角度から見直す技法を、心理学の領域では一つの言葉で呼んでいます。

【再評価】(さいひょうか / Cognitive Reappraisal)とは、出来事の意味を、別の角度から見直す技法のことです。

ポイントは、現像をやり直すのは、感情が湧く前ではないということです。感情はすでに湧いています。湧いた後で、もう一度現像をやり直す。それが再評価です。最初の現像をなかったことにするのではなく、最初の現像の上に、別の現像を重ねる。これが、感情を選び直す、ということの中身です。

これからお渡しする3つのステップは、すべてこの再評価を、3秒以内に行うための具体的な手順です。

Q3. 今日からできる3つのステップ

ステップ1:身体の動きを止める(物理的に1秒)

何かに対して感情が湧いた瞬間、最初にやることは、身体を物理的に止めることです。

具体的には、こうします。

> 口を閉じる。スマホを置く。手元の動きを止める。

たったそれだけです。たぶん、1秒で終わります。

なぜこれをやるのか。先ほどお伝えした通り、衝動は身体の動きとつながっています。口が動こうとしている、手が動こうとしている、その物理的な動きを、まず止めます。物理が止まると、衝動の勢いが、ほんの少しだけ削がれます。完全には消えません。けれど、削がれた分だけ、次のステップに移るための時間が生まれます。

ステップ2:身体の感覚に意識を向ける(2秒)

身体の動きを止めたら、次に、自分の身体の感覚に意識を向けます。

> 「いま、胸はどうなっている? 肩はどうなっている? 息はどうなっている?」

胸が詰まっているなら、詰まっていることに気づくだけ。肩が上がっているなら、上がっていることに気づくだけ。息が浅いなら、浅いことに気づくだけ。

なぜこれをやるのか。意識を「相手」から「自分の身体」に切り替えると、感情の暴走が一段階下がります。相手に向けていた怒りや焦りのエネルギーが、自分の身体を観察する側に回ります。観察する側に回ると、感情は「観察される対象」になります。位置が変わると、力が弱まります。

これも2秒で十分です。深呼吸する必要はありません。深呼吸は、慣れていない時にむしろ集中を切らすことがあります。ただ、身体の感覚に気づくだけで構いません。

ステップ3:この出来事を、別の角度から見直す(残りの時間)

身体の動きが止まり、身体の感覚に気づけたら、最後に、出来事を別の角度から現像し直します。

> 「この出来事には、別の理解の仕方があるとしたら、どんな理解か?」

「自分への侮辱だ」と最初に現像していたなら、「この子なりに精一杯やった結果かもしれない」「自分の指示が曖昧だったかもしれない」「相手にも事情があるのかもしれない」と、別の現像を試してみます。

ポイントは、最初の現像を否定しなくてよいということです。「侮辱だ」という現像も、ありえる現像の一つです。それを消す必要はありません。ただ、その上に、別の現像を重ねるだけです。重ねた瞬間、最初の現像の力は、相対的に弱まります。

ある経営者の方は、面談の場で、こう話されました。「最初は、別の現像なんてできなかった。怒りが強すぎて、どう見直しても怒りしか出てこなかった。けれど、3ヶ月続けたら、たまに『あ、この子の説明が下手なんじゃなくて、状況が複雑なんだ』と思える瞬間が出てきた。半年後には、その『たまに』が、半分以上を占めるようになった」と。これは、面談の場では何度かうかがってきた変化のパターンの一つです。※個人の感想であり、効果を保証するものではありません。

この3つのステップは、合わせて10秒以内に終わります。最初は、感情が湧いた瞬間に間に合わないかもしれません。けれど、感情が湧いていない平時に、何度もシミュレーションしておくと、現場で身体が勝手に動くようになっていきます。

Q4. 続けるためのコツ

完璧を目指さない

毎回完璧にやろうとすると、ほとんどの方が3日で止めてしまいます。

「思い出した時にやる」「気が向いた日だけやる」。それで構いません。10回中3回できたら、それは大きな前進です。

平時にシミュレーションする

3つのステップは、感情が湧いた瞬間にぶっつけ本番でやる技術ではありません。日常の落ち着いた時間に、過去に怒鳴ってしまった場面を思い出して、頭の中で何度もシミュレーションします。「あの時、最初に口を閉じる。次に身体の感覚に意識を向ける。最後に別の現像を試みる」と、頭の中で何度も再演します。

これを繰り返すと、似た場面が来た時、身体が勝手に手順を辿り始めます。「考える前に動く」が「考える前に手順を辿る」に変わります。これが、訓練の本質です。

独りで続けるのが難しい時は

これらのステップを試してみても、「現場で間に合わない」「シミュレーションすると、かえって過去の場面が辛くなる」という方もいらっしゃると思います。それは、努力が足りないからではありません。長年染み込んだ「感情に追いつかれる」回路は、独りで向き合うには大きすぎることがあります。

シリーズ内には、理論編「Self-regulationとは|医師が解説する感情を選び直す力」と体験編「怒鳴る寸前で踏みとどまった瞬間に何が起きていたか」もあわせてお読みいただけます。前の階層の実践として「感情に気づく力を鍛える3つの問い|Self-awarenessを育てる実践ワーク」「感情を許す力を鍛える3つの問い|Self-acceptance実践ワーク」もご用意しています。シリーズ核心「待つ筋力を育てる最終実践|やえこふクリニックの選択肢」もあわせてご覧ください。

それでも独りで進めるには重い、と感じる時は、専門家と一緒に整理する選択肢があります。


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まとめ

  • 再評価(さいひょうか / Cognitive Reappraisal)とは、出来事の意味を、別の角度から見直す技法のことです
  • 3つのステップ:① 身体の動きを止める ② 身体の感覚に意識を向ける ③ 出来事を別の角度から現像し直す
  • 合わせて10秒以内。感情が湧いていない平時に何度もシミュレーションして、身体に覚え込ませます
  • 完璧を目指さない。10回中3回できたら、大きな前進です
  • 独りで抱え込まなくてよい。専門家と一緒に整理する選択肢があります

監修:Dr.EKO博士(医師・医学博士・株式会社ヤエコフ代表)

免責事項: 本記事は、メンタル思考トレーニングおよびセルフケアに関する情報提供を目的とした内容です。医療行為・心理療法ではありません。重い症状が出ている方は必ず医療機関を受診してください。

最終更新:2026年5月

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Dr.EKO博士

Dr.EKO博士(YAEKOFU)

医師・医学博士 / やえこふクリニック院長

医師として保険診療の現場に立ちながら、ある問いが消えませんでした。「今出ている不調を取り除くだけで、その人は本来の自分に戻れているのか」。スタンフォード大学でEIを学び、分子栄養療法・スラトレ®を統合した独自のアプローチを確立。完全自費・マンツーマンで、エグゼクティブ・医師・リーダーの「本来の自分への回復」を支援しています。

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