Self-regulationとは|医師が解説する感情を選び直す力

「Self-regulation 自分の感情を選び直す力」の答えは、自己調整という心の働きにあります。湧いた感情に飲まれて行動してしまった後悔があり、その力を取り戻したいと感じている経営者・医師は少なくありません。本記事では医師の視点から、その仕組みを医学的に解説します。

Q1. なぜ「感情に振り回されてしまう」ということが起きるのか

ある経営者の方から、こんな相談を受けたことがあります。

「会議で部下の報告が要領を得ない時、頭の中では『深呼吸して、まず最後まで聞こう』と分かっている。けれど、口は勝手に動いて『結論から言って』と遮ってしまう。遮った瞬間、部下の表情が固まる。それを見て、自分も後悔する。次の会議でも、また同じことを繰り返す」

別の方は、こう話されました。

「家に帰って、子どもの宿題ノートを見た瞬間に、字の汚さでカチンと来てしまう。冷静に見れば、ただの宿題のノートだ。怒るほどのことではない。けれど、口は『なんでこんな書き方しかできないんだ』と動いている。子どもがびくっと身体を縮めるのを見て、夜になってから自分を責める」

なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。頭で「こうすべきだ」と分かっている時にも、感情が先に動いてしまう。判断力も理性も人並み以上にあるはずの方が、自分の感情に振り回されてしまう。それは、能力の問題ではありません。

人の脳の中では、感情と判断は、別々の場所で動いています。感情を生み出す場所(深い場所にある古い脳)と、判断を行う場所(前の方にある新しい脳)は、物理的に違う領域です。そして、刺激が入ってきた時、感情の場所の方が、判断の場所より先に反応します。これは、生き物として理にかなった構造です。危険を察知した時に、考えてから逃げるのでは間に合わないからです。

問題は、現代の経営や家庭では、この「感情が先に反応する」構造が、たいてい裏目に出る、ということです。会議室で部下の報告を聞く場面に、生命の危険はありません。家で子どものノートを見る場面にも、生命の危険はありません。けれど、感情の場所は古い構造のまま動いているので、些細な刺激にも、危険時と同じ強さで反応してしまいます。判断が追いつく前に、口が動きます。

あなたは正常です。人の脳が、感情を判断より先に走らせる構造である以上、感情に振り回されることは、能力の不足ではなく、生き物としての設計通りの反応です。問題は、設計通りの反応の上に、もう一段の「選び直し」を乗せられるかどうかだけです。

Q2. 自己調整とは何か

ここで、心の中で起きていることを、別のたとえで描いてみます。

家の中で、子どもが急にボールを投げて、テーブルの上のコップを倒したとします。コップは床に落ちて割れる。床は水浸しになる。

この瞬間、心の中では、二つのことが同時に起きています。一つは、「カッ」と熱くなる感情の動き。もう一つは、「まず子どもがケガしていないか確認しよう」という冷静な判断の動き。

何もしないと、熱の方が先に口から出ます。「何やってるの!」という声が、子どもに向かって飛びます。

ところが、この熱が口から出る前に、ほんの3秒だけ、間を入れることができたら、状況は変わります。3秒の間に、冷静な判断の方が、後ろから追いついてきます。3秒後、声をかける時には、熱と判断が両方乗った言葉になります。「ケガしてない? あぶないから、家の中ではボールはやめようか」。同じ場面でも、出てくる言葉は、まったく違うものになります。

この「3秒の間」が、自己調整という力の正体です。

ここで大事なのは、感情を消すのではなく、間を作るということです。熱は、湧きます。熱が湧くこと自体は、止められません。でも、湧いた熱が、そのまま口から出るか、3秒の間を経て出るかは、選べます。3秒の間さえ入れば、判断が追いつきます。判断が追いつけば、別の選択肢が見えます。

この「湧き上がった感情と行動を、自分で立て直す力」のことを、医学や心理学の領域では一つの言葉で呼んでいます。

【自己調整】(じこちょうせい / Self-regulation)とは、湧き上がった感情と行動を、自分で立て直す力のことです。

ポイントは「感情を抑え込む」ことではない、というところです。抑え込むと、地下水のように溜まって、別の場所であふれます。自己調整は、抑え込みではなく、間を作って判断を追いつかせる作業です。湧いた熱は、3秒のうちに自然に少し下がります。その下がった熱と、追いついた判断が混ざった状態で、行動を選び直す。それが、選び直すという力の中身です。

Q3. よくある誤解と、本当の構造

自己調整について、誤解されやすい点を整理しておきます。

ひとつ目の誤解は、「自己調整=感情を抑え込む力」というイメージです。実際には、抑え込みと自己調整は逆方向の動きです。抑え込みは、感情を「ない」ことにしようとします。自己調整は、感情が「ある」ことを認めながら、行動だけを別に選びます。前者は感情を地下に押し込めるので、いずれ別の場所であふれます。後者は感情を地上に置いたまま、行動だけを変えるので、感情はあふれません。

ふたつ目の誤解は、「自己調整は、気合いと努力でできる」という考え方です。これも違います。先ほどお伝えした通り、感情の動きは、判断より先に走ります。気合いを入れた瞬間には、すでに口が動き始めています。気合いで止められるなら、誰も苦しんでいません。自己調整は、気合いではなく、間を作る具体的な技術で実現されます。技術なので、訓練で身につけられます。

みっつ目の誤解は、「自己調整ができる人=怒らない人」というものです。これも違います。自己調整ができる人は、怒らない人ではありません。怒りを持ったまま、行動を選び直せる人です。怒りはあってよい。怒りに従って動かないだけです。怒っているのに、声を荒げない。落胆しているのに、責めない。この「のに」の部分を可能にしているのが、自己調整という力です。

感情知性(EI)の研究では、Self-awareness(気づく)と Self-acceptance(許す)の上に、Self-regulation(選び直す)が積み重なる、という3層構造が広く受け入れられています。気づき・許しの土台がない状態で、選び直しだけを訓練するのは、砂の上に家を建てるようなものです。土台が崩れれば、選び直しも崩れます。

ですから、もし「冷静になろうと努力しているのに、いつも感情が勝ってしまう」と感じているなら、その手前(気づく・許す)の階層で何かが詰まっていないか、確認することが先になります。3階層の関係については、後の論点でも詳しくお伝えします。

Q4. 自己調整を知ることで、何が変わるか

自己調整という概念を知ると、日常の感覚が少しずつ変わっていきます。

まず、「感情を消そう」とするのをやめられます。感情は消す対象ではなく、ただある対象だ、と分かると、消そうとする無駄な労力から解放されます。エネルギーは、消すことではなく、間を作ることに振り向けられます。

次に、3秒の間という、具体的な手段が手に入ります。「冷静になる」「大人の対応をする」といった抽象的な目標ではなく、「3秒、口を開けない」という具体的な動作になります。具体的な動作は、訓練で身につけられます。

最後に、怒っている自分を否定しなくなります。怒りは持ってよい。持ったまま、行動だけを選び直せばよい。この感覚が身体に染み込むと、感情の存在に対する抵抗が減り、結果として、感情自体の暴れ方も静かになります。

具体的にどんな場面でこの「3秒の間」が機能しているのかは、体験編「怒鳴る寸前で踏みとどまった瞬間に何が起きていたか」でご紹介しています。日常で自己調整を育てる具体的な3つのステップは、実践編「感情を選び直す3つのステップ|Self-regulation実践ワーク」でお渡しします。

自己調整は、感情知性の3階層の最終段階です。土台にある「Self-awarenessとは|医師が解説する感情に気づく力の正体」と、真ん中の「Self-acceptanceとは|医師が解説する感情を許す力の意味」が、その下を支えています。シリーズ核心「待つは、最高難度のスキル|医師が解説するリーダー最後の筋肉」では、この自己調整がさらに進んだ形(=待つ)が扱われています。


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まとめ

  • 自己調整(じこちょうせい / Self-regulation)とは、湧き上がった感情と行動を、自分で立て直す力のことです
  • 感情を消すのではなく、感情と行動の間に3秒の間を作って、判断を追いつかせるのが本質です
  • 抑え込みとは逆方向の動きです。感情が「ある」ことを認めながら、行動だけを別に選びます
  • 気合いではなく技術として身につけるものです。訓練で育てられます
  • 3階層の最終段階。気づく・許すの土台が整って初めて、選び直しが安定します

監修:Dr.EKO博士(医師・医学博士・株式会社ヤエコフ代表)

免責事項: 本記事は、メンタル思考トレーニングおよびセルフケアに関する情報提供を目的とした内容です。医療行為・心理療法ではありません。重い症状が出ている方は必ず医療機関を受診してください。

最終更新:2026年5月

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Dr.EKO博士

Dr.EKO博士(YAEKOFU)

医師・医学博士 / やえこふクリニック院長

医師として保険診療の現場に立ちながら、ある問いが消えませんでした。「今出ている不調を取り除くだけで、その人は本来の自分に戻れているのか」。スタンフォード大学でEIを学び、分子栄養療法・スラトレ®を統合した独自のアプローチを確立。完全自費・マンツーマンで、エグゼクティブ・医師・リーダーの「本来の自分への回復」を支援しています。

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