12月12日
自然に囲まれる環境を選んだ理由
「人を癒すには、自然の力を借りないと無理だ。」
そう強く思ったのは、2020年のパンデミックが起きたときでした。
当時、私は大学病院という“白い巨塔”の中にいました。オリンピック選手の診療にあたっていた最中、未知の感染症が中国から広がり始めたとの知らせが入りました。感染症対策強化のため、開設して数か月のスポーツ診療外来は真っ先に閉鎖されました。元気な選手が集まる場所は、確かに最初に閉じられるものです。
しかし、そこから日を追うごとに、私は“情報の時差”というものを痛感することになります。
現場だけが知る「時差」と「歪み」
医師として得る情報と、世間に出ていく情報には大きな時差があり、
さらにその間に“歪められて広がる情報”も存在します。
私はその構造を、医師として初めて体感しました。
そんな中、病院で「老害」と陰口を言われていた、影の薄い老先生がいました。
しかし私は、彼の言葉の奥にある“深さ”を感じ取っていました。
老先生の言葉が私の人生を変えた
2020年3月、彼はこう言いました。
「このウイルスは、いずれインフルエンザみたいに日常化するよ。
世間が気づくかどうかはわからないけどね。」
そして続けて、私の人生に関わる核心を突く言葉を残しました。
「君は教授になる約束をされているかもしれない。でもね、横槍というものが必ず飛んでくる。
そのポジションが“いつでも消える”可能性がある以上、上から順番に待つやり方では幸せにはなれないよ。
優秀な君は“自分の道を今から切り開きなさい”。」
その言葉は、私の胸の奥深くに落ちました。
スタンフォード大学からの推薦状と、日本の“行間の読めなさ”
私はスタンフォード大学から帰国したばかりでした。
世界最高峰の教授からの推薦状には、こう書かれていました。
「彼女を今すぐ教授にすれば、スタンフォード大学PM&Rスポーツ診療科との単独契約をプレゼントする。」
これは、英語でいう “Read between the lines”(行間を読め) に相当します。
つまり「意味わかるよね?」という交渉文です。
しかし、大学病院長も学校長も教授も、この“行間”を理解しませんでした。
直訳で読み上げたその瞬間、私は悟りました。
「あ、私の未来はこの人たちには託せない。」
日本では、なぜか“若さ”がビハインドとして扱われます。
その構造に、私は長く悩まされていました。
そんな中、老先生が最後にこう言いました。
「20〜30年待てば、上の人たちはいなくなる。でもね、君のその才能を埋もれさせるのは“社会の損失”だよ。
君が助けられる人を、今すぐ助けなさい。君には素晴らしい未来が待っている。」
その瞬間、胸の重荷がスッと消えました。
“仮想教授”のレールから降りた私は、自分の道を歩く決意をしました。
日本の離島へ——自然の中で気づいた「制限のなさ」
私は日本の離島へ移住しました。
自然に囲まれた環境で暮らし、オンラインで世界中の人々と仕事をする。
その生活を続けてわかったことがあります。
自然の中にいると、人間の悩みは驚くほど小さくなる。
自然界には食物連鎖がありますが、現代の地球には「人間の上位存在」がいません。
そのため、人間同士では噛み合わないことが多々あります。
だからこそ私は、
“自然”という上位の存在に身を委ねる選択をしました。
自然の中で仕事をし、人を癒すための発想が次々と生まれました。
そして確信しました。
「人が人を治すなんて、おこがましい。
私たちは自然の力を借りて初めて、人を癒すことができるのだ」と。
自然に囲まれたクリニックという選択
こうした背景が、当院が自然豊かな環境に建てられた理由です。
ちなみに当院の施設は、建築関連の受賞作品でもあります。
「現代版のお寺のようだ」と言われることもあり、
訪れた方は皆、それぞれの感性でこの空間を楽しんでくださいます。
心と身体の“故郷”のような場所として、
皆さまをお迎えできることを心から嬉しく思います。