ポキポキ鳴らす施術「スラスト法」は安全?首ポキとリスクを医師が解説


12月12日

ポキポキ音を鳴らす施術「スラスト法」は警告されています

「関節をポキポキ鳴らす施術は安全ですか?」
最近このご質問をいただくことが増えてきました。

本記事では、いわゆる 「スラスト法」 と呼ばれる“ポキポキ鳴らす施術”について、
最新の研究・公的機関の見解・臨床経験を踏まえながら、医師としての視点で解説します。

ポキポキ音を鳴らす「スラスト法」とは

スラスト法は、施術時に関節を急激に動かし“ポキッ”と音を鳴らす技法です。

多くの方が

  • 気持ちいい

  • 何となくスッキリする
    と感じる一方で、科学的な安全性については議論が続いています。

現時点で、スラスト法の「安全性を確立する学術的エビデンス」は存在しません。

リラクゼーションと治療は別物

音が鳴ると、身体がゆるんだような感覚が得られます。
ただし、快感やリリース感=安全性や治療効果とは限りません。

長期的にどのような影響が出るのか、科学的な検証が非常に難しいため、研究は進んでいません。

そのため、施術を受ける際には「快感」よりも「安全性」を優先する姿勢が大切です。

首ポキポキと椎骨動脈解離:因果関係は?

現時点では、
「首をポキポキ鳴らすと椎骨動脈解離が起こる」
という因果関係は証明されていません。

ただし、研究自体が非常に少なく、長期追跡データも不十分です。

そして、私はこれを“他人事”として扱うことはできません。

▼ 医学生時代の出来事

同級生のお母様がカイロプラクティック治療を受けていた際、
施術後に 椎骨動脈解離 → 脳梗塞 を発症されました。

肩こり改善のために通っていた施設で、繰り返し首をポキッと鳴らしていたそうです。

血栓がはがれ、脳へ飛び、脳梗塞につながった。

この出来事は、私に強い衝撃を与えました。

30代以降は特に注意

30代から動脈硬化は急速に進みます。
血管の壁は少しずつ硬くなり、粘着性の高い血栓がつきやすくなります。

そのため、
強い衝撃 → 血栓がはがれる → 脳や心臓の細い血管が詰まる
というリスクはゼロではありません。

「若いから大丈夫」という感覚は、血管に関しては当てはまりません。

研究結果はどうか?

現時点での医学研究では以下の通りです:

  • 大規模研究:頸椎マニピュレーションと椎骨動脈解離に有意差なし

  • 系統的レビュー:因果関係を示す証拠はなし

  • 約100万件の調査:重大な有害事象は10万回に1回未満

ただし──
研究自体が著しく足りていない 点には注意が必要です。

施術者側が“不適切な技法”を行えば、リスクは跳ね上がる可能性があります。

カイロ・整体による外傷性骨折

国民生活センターの報告では、
手技による危害の 9.6%が骨折 でした。

特に

  • 肋骨骨折

  • 背部のひび
    が多く報告されています。

さらに厚生労働省は、
「頸椎に急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は危険性が高く、禁止すべき」
と明確に警告しています。

まとめ

心と体を、ご自身を大切に。

施術は「気持ちいい」よりも「安全性」が重要です。
必要な場面では医師・専門家にご相談いただき、ご自身の身体と丁寧に向き合ってください。


Dr.EKO博士

医師・医学博士/産業医・PM&R研究医

整形外科専門医。スタンフォード大学研究医としてPM&R分野を研究後、現在は〈スラトレ®〉を中心に、ウェルネスと自己変容を支援するトレーニングおよびコンサルティングを提供中。上質な暮らしを望む方に向けた「YAEKOFU」では、人生を再設計する深い対話と伴走を行う。

▶︎ 株式会社ヤエコフやえこふクリニック