なぜ寛容な日と爆発する日が交互にくるのか
昨日は流せた一言が、今日は心の中で何度も反響する。「同じ自分なのに、なぜこんなに違うのか」と戸惑っていませんか。この体験には、感情の揺らぎという名前があります。読み終えた頃には、その瞬間の自分を責めなくてよい理由が分かるはずです。
Q1. その瞬間、何が起きていたか
夜、ふと天井を見上げた時のことを思い出してみてください。
昼間、スタッフが何気なく言った「来週の会議、どうしますか」という確認。あの瞬間、自分の声がいつもより冷たく、短くなっていた。本人は気づいていないかもしれません。でも自分は、すぐに気づいた。
「あ、今、いつもと違う声が出た」
それが、夜になって頭の中で何度も再生されます。
別の日。同じスタッフが同じトーンで「来週の会議、どうしますか」と聞いてきた時、あなたは普通に「水曜の14時で押さえて」と返した。何の引っかかりもなく。
二日とも、出来事は同じ。あなたも同じ自分。それなのに、反応がまるで違う。
会議の帰り道、信号待ちで、ふと思います。
「自分は、人格が二つあるのか」
胃のあたりに重いものが落ちる感覚。喉が少し詰まる感じ。背中が固くなる。日々、この身体感覚が積み上がっていきます。
朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた日もそうです。布団の中で、昨日の自分の言葉が蘇る。「あの一言、もう少し優しく言えたはずだ」。けれど別の日は、同じことを言ったのに、何も気にせず眠れた。
何が違うのか、自分でも分かりません。
そして、分からないこと自体が、また自分を疲れさせます。
Q2. その体験には、感情の揺らぎという名前があります
なぜ、同じ出来事に、こんなに違う反応が出てしまうのでしょうか。
人の感情は、実は「その日の出来事」だけで決まっていません。
イメージしてみてください。コップに水を入れていく場面を。
朝、あなたのコップには、昨日まで持ち越した水が、すでにある程度入っています。前日の会議で誰かが言った一言、夜中に思い出した3年前の出来事、明日の判断のプレッシャー。これらが目に見えない水として、コップに残っています。
そこに、今日のスタッフの一言という、ほんの数滴が加わる。
コップが空っぽに近い日なら、数滴は問題なく収まります。だから「水曜の14時で押さえて」と普通に返せます。
でも、コップがすでに表面張力ぎりぎりまで満ちている日。同じ数滴が、表面を揺らし、こぼれ落ちさせます。
これが「同じ出来事なのに反応が違う」の正体です。
あなたの人格が二つあるのではありません。コップに残っている水の量が、日によって違うのです。
そして、自分でその水量を、正確に測ることはできません。脳は、過去の出来事や、未来の不安を、本人が気づかないところで処理し続けているからです。
精神医学・心理学の領域では、この日々の反応の差を 【感情の揺らぎ】(かんじょうのゆらぎ / Emotional Fluctuation) と呼びます。
【感情の揺らぎ】とは、同じ出来事でも日によって感情の反応が変わる現象のことです。
Q3. なぜ自分だけがそう感じるのか
「こんなことで揺れてしまうのは、自分だけなのではないか」
産業医として、また経営者・医師の方々と面談を重ねてきた経験から、はっきりお伝えしたいことがあります。
これは、あなただけではありません。
むしろ、立場が上がるほど、責任が増えるほど、コップに溜まる水の量は増えます。日々、判断を担い、誰かの人生に影響する一言を発し、感情を表に出さずに進めていく。その仕事のあり方そのものが、見えない水を溜めていく構造を持っています。
「自分は感情のコントロールが苦手だ」と感じている経営者・医師の多くが、本当は逆です。
コントロールしすぎている。出すべき水を、出していない。だから、ある日、自分でも予想しないところで、表面張力が崩れる。
あなたの感受性が壊れているのではなく、むしろ感受性が正常に働いている証拠です。
そして、もう一つ。
立場が上の人ほど、揺らいだ自分を見せる相手が、いません。家族にも、スタッフにも、見せられない。「揺らいでいる自分」を一人で抱え込み、夜中に天井を見ながら一人で消化しようとする。それが、揺らぎを長引かせます。
ある経営者の方は、面談でこう話されました。「揺らいでいる日があると分かっただけで、その日の自分への評価が変わってきた気がする」と。揺らぎ自体は、問題ではありません。揺らぎを「異常だ」と思い込むことが、問題を作ります。※個人の感想であり、効果を保証するものではありません。
Q4. 似た体験を抱える人へ
あなたの体験は、感情調節の不安定性というシリーズの大きなテーマの、入り口にあたります。
同じ出来事に違う反応が出る ── この一日のレベルの揺らぎは、もう少し長い時間軸の「感情の波」と地続きにつながっています。仕組みを医学的に知っておきたい方は、「感情の波が止まらない原因|医師が解説する感情調節の仕組み(理論編)」をご覧ください。
そして、揺らぎが来た瞬間に、立ち止まるための具体的な手順を知りたい方は、「感情の波と向き合う3つの問い|今日からできる自己統合ワーク(実践編)」をどうぞ。
似たような戸惑いを別の角度から扱った記事も、参考になるかもしれません。「正しい選択が見えているのに、なぜか動けない」という経験を扱った「正しいと分かっているのに動けない時、何が起きているか」、そして「怒りを飲み込んだ後、体が重くなる」という身体感覚を扱った「怒りを飲み込んだあと、体が重くなる理由」もあります。
シリーズの核心となる、「待つ」という行為を選んだ夜の体験については、「シリーズ核心:待った日の夜、何度も判断を確かめ直す自分」で扱っています。
夜、自分の言葉を反芻している。それは、あなたの中にある、まだ言語化されていない大切なものが、表面に出ようとしているサインかもしれません。
あなたの感情の波がどこで詰まっているか、感情の3階層チェックリストをお渡ししています。読み終えたあとに、自分の中で起きていることを言葉にする手がかりとして、ぜひ受け取ってください。
まとめ
- 同じ出来事に違う反応が出るのは、感情の揺らぎと呼ばれる現象です
- 朝のコップに残っていた「昨日までの水」の量が、日によって違うために起きます
- 立場が上がるほど、見えない水は溜まりやすい構造です
- 感受性が壊れているのではなく、正常に働いている証拠です
- 揺らぎを「異常」と思い込むことが、揺らぎを長引かせます
監修:Dr.EKO博士(医師・医学博士・株式会社ヤエコフ代表)
免責事項: 本記事は、メンタル思考トレーニングおよびセルフケアに関する情報提供を目的とした内容です。医療行為・心理療法ではありません。重い症状が出ている方は必ず医療機関を受診してください。
最終更新:2026年5月
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