自分の状態を見極める3つの問い|トラウマと慢性ストレスを切り分ける
自分の状態がトラウマ寄りなのか慢性ストレス寄りなのか、その第一歩は、セルフモニタリングという小さな観察から始まります。本記事では、自分を第三者の目線で観察するための3つの問いをお伝えします。「自分の状態が分からない」と感じてきた経営者・医師の方に、特に役立つ内容です。
Q1. なぜ実践が必要か
「トラウマと慢性ストレスは別の現象だ、と理論編で読んだ。それでも、自分がどちらに近いのか、結局よく分からない」
そう感じることは、自然なことです。
理由は、自分のことを観察するのが、いちばん難しいからです。
他人のことなら、外から見えます。「あの人は最近疲れている」「あの人は何かを引きずっている」と、わりと冷静に判断できます。
ところが、自分のことになると、見える位置が変わります。自分の中にいながら、自分を眺めることになるからです。霧の中にいる人が、霧の濃さを正確には測れないのと同じです。
そして、ここが大事なところです。
「自分の状態が分からない」のは、あなたの観察力が低いからではありません。観察するための位置を、まだ取れていないだけです。
位置を取る方法があります。それを、これからお渡しします。
Q2. セルフモニタリングという技法
観察するための位置を、専門的な言葉で「セルフモニタリング」と呼びます。
ドライブレコーダーを、イメージしてみてください。
自分が運転している車に、ドライブレコーダーがついているとします。事故が起きた時、本人の記憶よりも、ドライブレコーダーの映像の方が、客観的です。「あの時、自分は冷静だった」と思っていても、映像を見たら、ハンドル操作が荒くなっていた、ということがあります。
セルフモニタリングは、自分の中にドライブレコーダーを置くようなものです。
自分の感覚や反応を、リアルタイムで記録していく。後から映像を見るように、自分の状態を眺める。これが、霧の中にいながら霧の濃さを測る方法です。
精神医学・心理学の領域では、この作業を 【セルフモニタリング】(せるふもにたりんぐ / Self-monitoring) と呼びます。
【セルフモニタリング】とは、自分の状態を、第三者の目線で観察することのことです。
ポイントは、評価しないことです。「これはダメな反応だ」「これは正しい反応だ」と判定すると、観察ではなく裁判になります。ただ「こうだった」と記録するだけでよいのです。
ノートでもメモアプリでも構いません。1日に1回、夜寝る前の3分間。それだけの作業です。
Q3. 自分を見極める3つの問い
具体的な3つの問いを、ご紹介します。
ノートを用意して、以下の問いに、毎日1行ずつ答えていきます。1週間続けると、自分の状態の輪郭が見えてきます。
問い1:今日、体に出た反応は、特定の場面に紐づいていたか
(目的:引き金が特定できるかを観察する)
夜、その日を振り返って、「胸が締めつけられた」「喉が詰まった」「肩がこわばった」などの体の反応があった瞬間を思い出します。
そして、その反応の前に、何かの引き金 ── 音、匂い、声のトーン、ある人の顔、ある場所、特定の単語 ── があったかを観察します。
> 「今日、午後3時に胸が詰まった。直前に、〇〇さんの声を聞いた」
> 「今朝、駅のホームで急に肩がこわばった。直前に、特定の香水の匂いがした」
引き金がはっきり特定できる日が続く ── これは、トラウマの色が強い可能性のサインです。
引き金が分からない、ぼんやりとした重さが続く ── これは、慢性ストレスの色が強い可能性のサインです。
問い2:週末や休日に、症状は軽くなっているか
(目的:休養と症状の関係を観察する)
土日や、まとまった休みに、体の重さが少し抜けるかどうかを記録します。
> 「土曜の朝、いつもより体が軽かった」
> 「日曜は、何時間も寝たのに、体重が乗ったように重い」
休めば波がある ── 慢性ストレスの色が強い可能性。
休んでも変わらない、または引き金に出会うと一瞬で戻る ── トラウマの色が混じっている可能性。
ここで強調しておきたいのは、両者が完全に分かれるわけではない、ということです。「両方の色が混じっている」状態は、ごく普通にあります。
問い3:過去のある場面を、いま冷静に語れるか
(目的:過去との距離感を観察する)
最後の問いは、少しだけ重いです。無理に答えなくて構いません。
「3年前(または5年前、10年前)のあの出来事を、今、誰かに冷静に話そうとしたら、自分の体はどう反応するか」を想像してみます。
> 「想像しただけで、胸が苦しくなる」
> 「あの時のことを思い出しても、もう冷静に話せる気がする」
> 「ある一場面だけ、まだ重い感覚が残っている」
特定の過去の場面を語ろうとした時、体が反応する ── トラウマの色が混じっている可能性。
特定の場面ではなく、「全体的な疲れ」を語りたくなる ── 慢性ストレスの色が強い可能性。
1週間記録した後の見方
7日分の記録を眺めて、傾向を見ます。
| 観察結果 | 可能性 |
|---|---|
| 引き金が特定できる日が多い | トラウマの色が強い |
| 引き金がはっきりしない、ぼんやり重い | 慢性ストレスの色が強い |
| 休むと軽くなる波がある | 慢性ストレスの色が強い |
| 休んでも引き金で戻る | トラウマの色が混じっている |
| 過去の特定場面で体が反応する | トラウマの色が混じっている |
ある経営者の方は、私との面談でこう話されました。「1週間記録してみたら、自分の不調は『慢性ストレス7割、トラウマ3割』くらいだと感じた。それまで全部を一緒にして『自分は弱い』と考えていたが、整理できたことで対応が変わった」と。同じような声を、面談の場では何度もうかがってきました。※個人の感想であり、効果を保証するものではありません。
ここで強調しておきます。これはあくまで、自分の状態を観察するための入口です。診断ではありません。実際の見極めや対応については、必要に応じて医療機関や専門家にご相談ください。
Q4. 実践を続けるコツ
1週間で結論を出さない
1日の記録だけでは、自分の傾向は見えません。最低でも7日、できれば2週間続けてください。短期間の記録だけで「自分はトラウマだ」「自分は慢性ストレスだ」と決めつけないようにします。
評価しない
ノートに書いた内容を、後から「ダメな反応だ」「弱い」と評価しないでください。ドライブレコーダーは、運転を採点しません。ただ記録するだけです。あなたのノートも、同じ役割でよいのです。
重い感覚が続く時の選択肢
ここまで実践してみても、自分の状態が見えてこない、または見えた結果が重く感じる ── そういう方もいらっしゃるはずです。
それは、あなたの観察が足りないからではありません。長く抱えてきた状態は、一人で全体像を眺めるのが難しい構造を持っています。専門家と一緒に、自分のノートを眺めながら、輪郭を確かめていくと、はるかに早く整理できることがあります。
シリーズ内には、理論編「トラウマと慢性ストレスの違い|医師が解説する見極め方」、体験編「ふとした瞬間に過去が甦る感覚は何か」もあわせてご用意しています。
関連する実践として、感情の波と向き合う「感情の波と向き合う3つの問い|今日からできる自己統合ワーク」、反芻思考を止める「反芻思考を止める3つの方法|今夜から使える実践ワーク」もあります。
シリーズ核心の実践編は、「シリーズ核心:待つ筋力を育てる最終実践|やえこふクリニックの選択肢」をご覧ください。
それでも独りで進めるには重い、と感じる時は、専門家と一緒に整理する選択肢があります。
やえこふクリニック パフォーマンストレーニングのご案内
やえこふクリニックでは、経営者・医師・リーダーの方向けに、Dr.EKO博士(医師・医学博士)監修のパフォーマンストレーニングをご案内しています。自分の状態を一人で見極めきれない方が、専門家と一緒にノートを眺めながら、対応の方向性を整理していくための場です。
「トラウマ寄りなのか、慢性ストレス寄りなのか、自分でも見えない」「セルフチェックだけでは追いつかない」。そういう方のためのご案内ページを、下記にお届けします。
まとめ
- 自分の状態を見極める第一歩は、セルフモニタリングで観察位置を取ることです
- 3つの問いは、引き金の特定性・休養との関係・過去との距離感です
- 1週間記録してから傾向を眺めます
- ノートはドライブレコーダー。評価せず、ただ記録するだけで充分です
- 整理がつかない時は、専門家と一緒に眺める選択肢があります
監修:Dr.EKO博士(医師・医学博士・株式会社ヤエコフ代表)
免責事項: 本記事は、メンタル思考トレーニングおよびセルフケアに関する情報提供を目的とした内容です。医療行為・心理療法ではありません。重い症状が出ている方は必ず医療機関を受診してください。
最終更新:2026年5月
関連記事