社員の自己肯定感が低い「本当の原因」——経営者が最初に見るべき場所

この記事のポイント:「うちの社員の自己肯定感が低い」と悩む経営者は多いものの、実は社員を変える前に経営者自身が向き合うべき課題があります。内閣府の調査データと組織心理学の知見をもとに、健診のあとのタイミングで経営者が自分の思考を点検する意味を整理します。

「うちの社員が自己肯定感低くて困る」——その相談、本当に社員の問題ですか?

経営者の方から、次のような相談をよく耳にします。

「うちの社員の自己肯定感が低くて困っているんです。見ていてイライラするほどで。先生、なんとかしてもらえませんか」「時々、話だけでも聞いてもらえませんか」

このセリフ、経営の場面だけでなく、家庭でも頻繁に登場します。「うちの旦那が」「うちの嫁が」「うちの子が」「うちの親が」——主語が変わっても構造は同じです。共通しているのは、「相手をなんとかしたい」という気持ちです。

内閣府が発表した「令和元年版 子供・若者白書」では、日本の若者の自己肯定感は欧米6カ国と比較して最も低いという結果が示されています。つまり、「うちの社員だけが特別」ではなく、日本社会全体の構造的な課題といえるのです。

ただ、ここで立ち止まって考えてほしいことがあります。「社員をなんとかしたい」——その発想自体が、すでに問題の一部かもしれません。

健康にも人材育成にも「A=B」の方程式は存在しない

経営判断においては、やはり目に見える成果が欲しくなります。1,000円を投じたら、1,000円分のリターンを求めたくなるのは自然な感覚です。しかし、人の心と身体に関しては「A=B」の単純な方程式は成り立ちません

これは健診結果の改善でも同じことがいえます。

  • この薬を飲んだら血圧が下がる
  • 面談を1回受けたら自己肯定感が上がる
  • 手術を受けたら元通りになる

いずれも一部は事実でも、「それだけで解決する」という保証はありません。人材育成が「人材投資」と呼ばれるように、投資にはリスクと時間軸の視点が必要です。

そして、多くの経営者が見落としている「投資先」があります。それは社員ではなく、経営者自身です

なぜ「社員を変える」より「自分の思考を整える」が先なのか

経営者が社員の面談を医師に依頼するとき、次のような会話になることがあります。

「社員と面談してもらえませんか」「ご本人の意向はどうですか」「いや、聞いていません」

社員は家族のように大切な存在ですが、子どもではなく、一人の自立した大人です。本人の同意なく医師との面談を突然指示されれば、「自分はダメ扱いされているのか」と誤解を生むリスクもあります。経営者の優しい思いが、逆に組織の心理的安全性を損ねる可能性があるのです。

組織心理学の分野では、リーダーの感情と思考の質が、チーム全体の空気を決めることが広く知られています。スタンフォード大学で教鞭をとるLaura Delizonna氏は、感情知性(Emotional Intelligence)がリーダーシップの核心であると論じています。

ここで問いかけたいのは次の2点です。

  • 「イライラする」——その感情は、どこから来ているのか
  • 「なんとかしてほしい」——その発想は、相手を「問題」として見ていないか

これは経営者の人格を否定する話ではありません。リーダーにはリーダー特有の思考の癖があり、それが無意識に組織の空気を形成しています。まず自分自身の思考パターンに気づくこと——これが、社員の自己肯定感という現象を変える最も効果的な入り口なのです。

健診のあとが、経営者の「思考の点検」のベストタイミング

健診の結果を受け取った直後は、自分の健康を客観的に見直す貴重な機会です。そして経営者にとっては、身体の数値だけでなく「思考の現在地」を点検するタイミングでもあります。

リーダーの思考が整理されると、次のような変化が起きやすくなります。

  • 部下に対する「なんとかしたい」が、「まず理解したい」に変わる
  • 「イライラ」の正体が自分の中にあったことに気づく
  • 声のかけ方や場の空気が自然に変わる
  • 結果として、社員が安心して自分を表現できる組織風土が育つ

※変化の現れ方には個人差があります。ここに挙げたのは一般的な傾向であり、効果を保証するものではありません。

社員を「shine(輝く存在)」に変える戦略は、リーダーから始まる

「うちのダメな社員」という認識を、「うちのshine(シャイン=輝く存在)」へと変えていくには、チーム全員で成長する戦略が必要です。shine同士の相乗効果が生まれてこそ、人材投資は真のリターンを生みます。shineは英語で「輝く」という意味。組織全体で労働意欲と生産の質を輝かせていく——これこそが本当の健康経営だと考えます。

そのためには、少しずつ、一歩一歩の改革が必要です。そして、その一歩目は社員研修ではなく、リーダー自身の思考を整えることから始まるのです。

まとめ——「社員の自己肯定感が低い」と感じたときのチェックリスト

  • 自分の中に「相手をなんとかしたい」という発想が強く出ていないか
  • 「イライラ」の背景に、自分自身の思考パターンがないか
  • 社員への関わり方を、本人の同意なしに決めていないか
  • 健診結果と同じように、自分の「思考の現在地」を定期的に点検しているか

「社員をなんとかする前に、ご自身の思考を点検してみませんか」——この問いは、健診のあとに立ち止まって考えるべき、経営者にとって最も本質的な問いの一つだと、私は考えています。


※本記事は情報提供を目的としており、医療行為・診断の代替ではありません。体調や思考面に不安がある場合は、必ずかかりつけ医または専門家にご相談ください。

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最終更新:2026年4月

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Dr.EKO博士

Dr.EKO博士(YAEKOFU)

医師・医学博士 / やえこふクリニック院長

医師として保険診療の現場に立ちながら、ある問いが消えませんでした。「今出ている不調を取り除くだけで、その人は本来の自分に戻れているのか」。スタンフォード大学でEIを学び、分子栄養療法・スラトレ®を統合した独自のアプローチを確立。完全自費・マンツーマンで、エグゼクティブ・医師・リーダーの「本来の自分への回復」を支援しています。

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