経営者の約半数が心の不調を経験——なぜ既存のメンタルケアは届かないのか
この記事のポイント:経営者の約半数が「心の不調」を経験しているという調査結果があります。6割以上がメンタルケアの必要性を感じていながら、実施できているのは3割以下。この大きなギャップには、経営者特有の構造的な理由があります。既存のメンタルヘルス対策がなぜ経営者に届かないのかを、産業医の視点から整理します。
経営者の約半数が「心の不調」を経験している
株式会社Awarefyが2023年に実施した調査によると、経営者の約半数が「心の不調」を感じた経験があるという結果が出ています。
不調の要因として多く挙げられているのは、次のような経営者特有の重圧でした。
- 資金繰り(45.1%)
- 将来の見通し(44.4%)
- 人材確保・組織運営
- 責任の重さ・孤独感
従業員の心の不調とは異なり、経営者の不調は「経営判断そのもの」と地続きです。誰かに代わってもらうことができない、相談相手が極端に少ない、弱音を吐きづらい——こうした構造が、不調を深めやすくしています。
「必要性を感じる6割」と「実施する3割」の大きなギャップ
同調査でさらに注目すべきは、次の事実です。
- メンタルケアの必要性を感じている経営者:6割以上
- 実際にメンタルケアを実施している経営者:3割以下
「何かしたほうがいい」とわかっていながら、具体的な一歩を踏み出せていない——これが、多くの経営者が置かれている現実です。
この「知っているのに動けない」ギャップは、個人の怠慢や意志の弱さが原因ではありません。既存のメンタルヘルス対策が、経営者向けに設計されていないという構造的な問題なのです。
既存メンタルヘルス対策が経営者に届かない3つの理由
1. ストレスチェックの「対象者」ではなく「実施する側」だから
厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査によれば、メンタルヘルス対策に取り組む事業所の65.3%が「ストレスチェックの実施」を挙げています。しかし、経営者自身はストレスチェックの対象ではなく、実施責任を負う側の立場です。自分で自分を対象にすることは制度上想定されていません。
2. 一般的なカウンセリングの枠組みでは物足りない
カウンセリングは「話を聴く」ことが中心です。しかし、経営者は限られた時間の中で具体的な判断軸や思考整理を求める傾向があります。「聴いてもらって終わり」では、次の経営判断につながらないと感じる方が少なくありません。
3. 「不調対処型」であり「パフォーマンス向上型」ではない
既存のケアの多くは、「不調が起きてから対処する」設計です。しかし経営者が本当に必要としているのは、不調を起こす前に思考と感情の扱い方を整える予防的アプローチです。投資対象としての「自分自身」を鍛える視点が不足しているのです。
身体と思考の両面からのアプローチという選択肢
近年、メンタルの不調と身体症状が密接に関係していることが、医学的にも広く認識されてきました。肩こり、腰痛、慢性的な疲労感、睡眠の質の低下——これらの身体症状の背景に、思考の癖や感情の扱い方が関わっているケースがあるとされています。
しかし、従来の整形外科は身体症状だけを診るのが一般的です。逆に精神科やカウンセリングは心だけにアプローチする傾向があります。この縦割りの隙間に、経営者のメンタル課題がはまり込んでしまうのです。
理想的なのは、身体と思考の両面を見る統合的なアプローチです。
健診のあとは、経営者にとって絶好の見直しタイミング
健診で身体の数値を確認した直後は、自分の状態を客観視する貴重な機会です。そして経営者にとっては、身体の数値と同じくらい「思考と感情の現在地」を見直す時期でもあります。
次のような兆候があれば、心の不調が進んでいる可能性があります。
- 判断に迷いが増えている
- 些細なことでイライラする時間が長くなった
- 夜、仕事のことが頭から離れない
- 孤独感が強まっている
- 週末に回復しきれない
※ここに挙げた兆候は一般的な傾向であり、診断基準ではありません。症状が強い場合は、精神科・心療内科などの専門医療機関にご相談ください。
まとめ——「6割が必要を感じ、3割しか動けない」を超えるために
- 経営者の不調は、経営判断と地続きで切り離せない
- 既存のケアが届きにくいのは、構造的な設計の問題
- 身体と思考の両面を見る統合的アプローチが鍵
- 健診のあとは、身体と思考の両方を点検するタイミング
「自分のメンタルは大丈夫」と考える方ほど、一度立ち止まって確かめる価値があります。経営者が倒れれば、組織全体が止まる——だからこそ、最も投資すべき対象は、あなた自身の健康と思考なのです。
※本記事は情報提供を目的としており、医療行為・診断の代替ではありません。体調や思考面に強い不安がある場合は、かかりつけ医・精神科・心療内科などの専門医療機関にご相談ください。
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最終更新:2026年4月
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