「痛みを感じたら医師に相談を」その医師がいない日本の診療体制
この記事のポイント:Dr.EKO博士(整形外科医・医学博士)が、「痛みを感じたら医師に相談を」と言われても相談できる診療科が不在な日本の現状と、運動器リハビリテーション医学(PM&R)の海外との違いについてお伝えします。
運動指導の場面でよく見かける「痛みを感じたら医師に相談を」という注意書き。しかし、実際にその「医師」が誰なのか、日本の医療制度ではとても曖昧です。運動器の痛みや使い痛みを専門に扱うPM&R(運動器リハビリテーション医学)という診療科は、実は日本には存在していません。今回は、この診療体制の現状と課題についてお伝えします。
健康運動ブームと増える痛み・怪我
近年、書籍や動画サイトを通じて、誰でも気軽に体操を学べる時代になりました。健康のために運動を始めたいという気持ちは素晴らしいものですが、一方で安易な運動指導によって、痛みや怪我を経験する方が増えています。特に中高年女性は、手首や膝、腰などの痛みに悩まされている方が多い印象です。
私が整形外科医として長年、病院勤務の中で診てきた経験からもそう言えますし、各種データからも示されています。健康のための運動ブーム自体は、時代の良い流れだと感じています。この文化が根付き始めたのは、2020年のパンデミックによる自宅待機の経験からではないでしょうか。
データから見る健康トレーニングブーム
コロナ前後でのトレーニングブームの変化を示す具体的な比較データは限られていますが、いくつかの関連情報から傾向を読み取ることができます。24時間ジムのエニタイムフィットネスは、2020年以降の3年間で226店舗増加し、1000店舗超えを達成しています。また、コロナ前はあまり普及していなかったオンラインフィットネスも、2020年以降急速に広がりました。
増える故障と事故のデータ
トレーニングへの関心が高まる一方で、それに伴う故障の増加を示すデータもいくつか見られます。
カーブスの事故報告
民間運動施設カーブスの調査では、4年間(2014〜2017年)で1,164件の事故報告があり、うち367件が救急搬送事例でした。事故の87.3%は軽症でしたが、中等症9.3%、重症3.4%も含まれています。マシントレーニング中の胸骨骨折や、転倒による大腿骨骨折などが報告されています。
スポーツ再開と怪我の増加
KINMAQ整体院の報告によると、2023年1〜3月にスポーツ再開後のケガで来院する30〜40代のビジネスパーソンが、前年同時期の約2倍に増加しました。また、アルトラ(シューズブランド)の調査では、ランニングを始めてから1年以内に足の痛みや違和感を覚えたランナーは65.6%にのぼり、うち61.7%がそのために走るのをやめたり中断したりしたことがあると回答しています。
これらのデータから、コロナ禍を経て関心が高まる一方で、急激な運動再開や不適切な方法により、怪我や故障のリスクも増えていることが示唆されます。適切な準備や指導の大切さが浮き彫りになっていると言えるでしょう。
運動による痛みや怪我への対策
簡単な運動でも痛みや怪我が生じる場合、私が考える解決策は大きく2点です。
- 痛みと怪我を生まない体操指導ができる指導者
- それを丁寧に診ることができる医師
多くの運動指導では「痛みを感じた場合はすぐに中止して医師に相談してください」という注意書きがよく見られます。しかし、現実には健康のための体操で怪我をして整形外科を受診しても、レントゲン検査で骨折がなければ、相談先として十分に機能しないことがあります。
日本の医療体制の課題
ここで問題が生じます。動画の指導者とは直接会話ができず、病院では検査と痛み止めの処方で終わることもあります。ヨガやジムでは痛みがある場合、参加を拒まれることもあります。そもそも、ヨガやジムのインストラクターには「治療」の側面がありません。日本では治療ができるのは医師のみです。
運動器の痛みや怪我を専門的に扱うのは整形外科医ですが、リハビリテーション科医は主に脳疾患のリハビリを行う印象が強く、「運動器のリハビリテーション医学は?」と聞くと、実は国内では不在です。
海外との違い:PM&R専門医の存在
欧米やアジアの他国では、PM&R(Physical Medicine and Rehabilitation)という専門医がいます。これは運動器の痛みや慢性的な使い痛みなどを専門的に扱う医師です。当院長は日本人として初めて米国スタンフォード大学PM&Rスポーツ診療部へ研究医として採用された経歴を持ちます。日本にはPM&Rの診療科がないため、「手術をしないで治す整形外科医」という立ち位置になります。
もちろん、骨折や断裂など、物理的な修復を要する怪我については引き続き保険診療内での外科的治療が必要です。
当院の取り組みとまとめ
当院のメディカルトレーニングは治療の側面を持つトレーニングですが、日本の医療制度にはフィットしないため、健康増進法に基づく「体操教室」として運営しています。日本の医療体制には、運動による痛みや怪我に対応できる専門的な診療科がまだ十分に整っていません。今後、この分野の発展が望まれると感じています。
参考文献
- 日本臨床スポーツ医学会誌 27-2
- コメディカルマイナビ|セラピストプラス
- アルトラ|ランニング調査
- PR TIMES|カーブス事故調査
- Planet|フィットネス動向
- FitnessClub Business
- SHAREZ|フィットネスカオスマップ2023
- HALFTIME|Fitness Trend
※本記事は情報提供を目的としており、医療行為・心理療法ではありません。個人の感想であり、効果を保証するものではありません。
最終更新:2026年4月
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