「疲れていて当たり前」は本当か——慣れが麻痺に変わる境界線
この記事のポイント:「疲れていて当たり前」という感覚は、強さではなく感覚の麻痺かもしれません。WHOの調査では週55時間以上の長時間労働で世界の年間74万5千人が亡くなっており、日本を含むアジアが最もリスクの高い地域とされています。肩こりや腰痛が国民病であり続ける本当の理由と、環境ではなく思考の使い方から疲弊を減らす視点を整理します。
「慣れている」のではなく「麻痺している」——疲弊の本当の危険
「疲れていないと、まるでさぼっているように見られる」「休日も仕事のことが頭から離れない」「体が重いのが普通になっている」——こうした感覚を「自分は鍛えられている証拠だ」と受け止めている方は、少なくありません。
しかし結論から言えば、慣れているのではなく、感覚が麻痺しているだけの可能性があります。
スタンフォード大学に留学した医師が、現地のルームメイトに日本の「過労死(Karoshi)」という概念を説明したときのこと。返ってきた言葉は「働きすぎて死ぬ?そんな言葉が存在すること自体が異常だ」でした。海外から見ると、日本の勤労文化は明らかに異常値です。
WHO調査——長時間労働で世界の年間74万5千人が亡くなっている
WHOとILOの合同調査(2021年発表)によると、週55時間以上の長時間労働を原因とする脳卒中や心臓疾患で亡くなった人は、世界で年間74万5千人にのぼります。
特筆すべきは、この調査で日本を含むアジア地域が最もリスクが高い地域とされていること。そして、男性の死亡率は女性の約3倍であり、働き盛りの経営者・管理職層に集中していることです。
「疲れに慣れている」ことは、強さの証明ではありません。体と心からのSOSに気づけなくなっている状態の可能性があるのです。
肩こりと腰痛が「国民病」であり続ける本当の理由
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、男性の最多訴えは長年「腰痛」、女性は「肩こり」がトップでした。令和4年度からはこの性差がなくなり、肩こりと腰痛は性別を問わず日本人を最も悩ませる症状となっています。
しかし、この調査が始まった平成19年から、状況はほとんど変わっていません。整骨院に通っても、マッサージを受けても、一時的には楽になる。でもまた元に戻る。
なぜでしょうか。
整形外科の臨床現場で多くの患者さんを診てきた経験から言えるのは、肩こりや腰痛は「体の悲鳴」であると同時に、「心のSOS」でもあるということです。ストレス、過労、睡眠不足——これらが積み重なると、筋肉は無意識に緊張し続けます。体の部位をほぐすだけでは、根本は変わりません。
変えるべきは環境ではなく「思考の使い方」
ここで多くの方が思うのは、「でも仕事量は減らせない」「環境を変えるのは現実的ではない」ということではないでしょうか。
実は、変えるべきは環境ではなく、思考の使い方です。
同じ業務量でも、思考が整理されている人とそうでない人では、疲労の蓄積が大きく異なります。
- 判断のひとつひとつにエネルギーを消耗する人
- 感情に振り回される時間が多い人
- 休むことに罪悪感を持つ人
- 他人の目を気にして本音を抑え続ける人
これらはすべて「思考の癖」です。癖である以上、気づけば変えられます。
「疲弊パターン」を点検するチェックリスト
健診のあとのタイミングで、以下のチェックリストで自分の疲弊パターンを確認してみてください。
- 起床時にすでに疲れを感じる日が週3日以上ある
- 日中、集中できない時間帯が決まっている
- 休日も仕事のことを考えてしまう
- 肩・首・腰の慢性的な不調がある
- 睡眠時間は取っているのに疲れが取れない
- 最近、以前楽しかったことが楽しめなくなった
- 怒りやイライラの頻度が増えた
3つ以上当てはまる場合は、疲弊のサインに麻痺している可能性があります。
まとめ——健診のあとは「働き方」を見直すタイミング
- 「疲れに慣れる」は強さではなく感覚の麻痺の可能性
- WHO調査では日本含むアジアが過労リスク最上位地域
- 肩こり・腰痛は体と心の両面からのSOS
- 環境より「思考の使い方」の方が変えやすい
健診で異常を指摘されたとき、多くの方は食事や運動に目を向けます。しかし本当の変化は、思考の使い方を変えることから始まるのかもしれません。疲れていて当たり前——その前提を一度疑ってみる価値があります。
※本記事は情報提供を目的としており、医療行為・診断の代替ではありません。体調に強い不調がある場合は、必ずかかりつけ医または専門医にご相談ください。
▶ 出典
・国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)
・WHO/ILO Joint Estimates of the Work-related Burden of Disease and Injury, 2000–2016(2021年発表)
▶ 関連情報
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最終更新:2026年4月
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